舞阪港カツオ漁 漁徳丸 黒潮の子(予告)

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



「来年は一緒に行こう」

昨年の初夏、シーズン始まったカツオ漁は数年続く不漁、果たせ
ずに終わった昨年のリベンジと、エージ船長の漁徳丸は舞阪から
はるか彼方の黒潮へ向います。

舞阪港を深夜に出漁し南へ、南へ、はるか黒潮の上で黒潮の子
たちに立ち向かった「漁徳丸 黒潮のカツオ漁」の連載がはじまり
ます。



黒潮とはご存知のとおり、暖流の大きな流れ、宮崎沖あたりから
黒潮の子「カツオ」たちはその流れの中で育ち、北上していきます。

その命の奔流に挑み、手にするのが舞阪のカツオ船団です。



カツオは船から流した縄(引き縄)の先につけたバケに食いつきます。
その群れは一度ヒットすれば興奮で海を盛り上げて船を追うのです。

そして舞阪カツオ漁師の強く長い手の先で「ビリビリビリビリ」と驚愕
の震えを起して黒潮から引っこ抜かれてゆくのです。

黒潮の子に挑む、舞阪のカツオ船団、「漁徳丸 黒潮のカツオ漁」連
載にご期待ください。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 漁徳丸 南へ夜の海へ

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



5月9日の早朝とはまだ言えない深夜、舞阪港に近い着け場(係留
場所)に既に航海灯を点けた漁徳丸が出漁準備を終えて待ってい
た。黒潮のカツオ漁に限らず漁の朝は先んずることが漁師さんの心
構え、心意気となる。

乗せてもらう者が後で到着することになり朝から恥じたまま暗い海
に心点した船に乗船させていただいた。

エージ船長には今まで「アマダイ漁」、「手長エビ(アカザエビ)漁」、
トラフグ漁」の三つの漁、遠州灘の浸食を調査する「遠州灘深浅調
」に同行させていただき、教えていただきました。

じつは現在書いている「冨士丸のシロコ漁」への乗船もエージ船長
のご紹介で実現した。ならばしっかりとカツオ漁も伝えたい、眠って
おかねばならぬ日に興奮して寝付けず、朝を迎えていた。



漁徳丸は5トン級のチャカ(網漁・釣り漁をする船)船で、黒潮までの
長い旅を実現できる。

「カツオ漁が一番好きかな」、エージ船長の慎重な操船でまずは舞阪
港から今切を通り抜けて遠州灘へすべり出す。
後ろは南浜名湖弁天島の夜景が輝いている。



空は月も星も見えない曇り空、向うは遠く南の黒潮まで、闇夜の海を
伝えるのはレーダーに映る僚船や航路を行く大型船のみである。

カメラマンが遅れるから僚船は既にレーダーの先にいる。
出港を知らせ、僚船から逐一入る現在位置をGPSで見ながら、真っ暗
な海を行くのです。

レーダーに写る船の灯りが先にポツンと見えてくる。
そして後ろからも僚船たちが航海灯だけでその存在を見せて追ってく
る。無線に応えながら、エージ船長は黒潮を目指して行くのです。

真っ暗な夜の海の不思議がこのあとやってくるのです。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 漁徳丸 青い光の不思議

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



西の宮崎沖あたりから成長しながら遠州灘沖に達し、東へと向う
カツオの群れを釣る漁は遠い沖の黒潮を目指す航海となる。

早暁に黒潮に達するためにはまだ深く眠る舞阪を夜半に出漁す
る。エージ船長の漁徳丸はレーダーに一際大きく映る貨物船らの
航路を大きく越えて夜の海を南を目指します。



「夜光虫が輝いているよ」

船長が指す右舷に青い光が現れています。
海洋性のプランクトンである夜光虫は、昼間見れば赤く、岸に寄
れば海を真っ赤に染めて害をする「赤潮」の原因ともなる生き物、
それが沖に群れれば青く光り輝くのです。



沖の波間にただよい群れる夜光中は刺激を受けると光ります。
夜光虫たちの海を越えてゆく舞阪のカツオ船団の早暁の大漁を
祝福するかのように青く輝き光り、船尾から曳く曳き波の中でそ
の光を消していきます。

左舷の青い不思議な光の中に赤い光が映ります。
船の航海灯は右舷が緑、左舷が赤、これを見れば夜間航行する
船の向きを知ることができます。



「曇っているから朝が遅いね」、船長は言い、水温系を見るように
教えてくれます。
黒潮は暖かい海、真っ暗な海を行く漁徳丸、舞阪のカツオ船団は
レーダーと、GPSの航海を続けながら水温計があがる海を目指し
ているのです。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 漁徳丸 曳縄竿を広げる

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



深い夜の舞阪港を出港して数時間、数十マイルの海を越えた漁
徳丸と僚船は水温計のあがる海域を目指します。

「黒潮の本流が樹の幹ならば、太い枝があるんだ、枝潮というん
だよ」、エージ船長が達した海は枝潮の上、水温は急上昇して19
度をこえています。

「さあ、準備するよ」



カツオ船は両舷に曳縄竿(ひきなわざお=アウトリガー)を装備し
ています。この黒潮に伸ばす長い手を開いていきます。

漁徳丸の曳縄竿は赤色にペイントされていて、航海中や港で漁徳
丸と知る印としています。長い右手が伸ばされます。



黒潮は強く流れる海流です。その上に達した漁徳丸は海流の中で
揺れている。船の上で重い左手が開かれていきます。
僚船も近辺にいる海で船長は見張り、操船の上に、準備をはじめ
ています。



船尾で道具を用意します。
漁徳丸が曳くのは八本の縄、左右の曳縄竿にそれぞれ3本、船尾
から二本を曳きます。

早暁の海はどの釣りも同じ、魚の活性が高い時間です。

「はじめるよ」、船の無線から僚船の準備の様子が聴こえ、漁徳丸
のカツオ漁がはじまるのです。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 漁徳丸の04:20分

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



舞阪港からはるか南の海へ、西から東へ強く流れる黒潮の本流
は太い幹から枝潮を伸ばし、黒潮の子「カツオ」を連れて流れて
います。

4:20分、早暁の黒潮上で漁徳丸は支度をはじめています。
どの魚も同じ、朝まずめの活性を狙います。



両舷から伸ばした曳縄棹(ひきなわざお)にそれぞれ三本の縄を
曳いています。それぞれの縄の先には海面を跳ね、水しぶきをあ
げる道具、その先に蛸を模したバケ(疑似餌)、ハリがついています。



左右三本づつで六本、船尾からさらに二本の縄が曳かれます。
合計八本を曳きながら漁徳丸は進みます。

エージ船長はコップピットの上から顔を出し、操船しながら鳥が群れ
るトリヤマを探します。



船尾からすぐ、バケを加えたカツオが水面に躍り上がります。
黒潮の海の一匹目、黒潮の興奮は伝播して黒潮の子たちが狂い
はじめます。

まだ写真にならぬ操業の蒼い海を8本の縄は左右に近く遠く曳いて
騒ぎまわる黒潮のカツオまつりがはじまります。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 漁徳丸 モチガツオのベッド

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



舞阪沖遠い南の海、黒潮の上に八本の縄を曳く漁徳丸の船尾で
早暁の黒潮のカツオ祭りがはじまります。

カツオ船はイワシなどを追いつめたなぶら(海が小魚などで湧きか
えること)に群れる鳥がつくるトリヤマを探しますが、この日は鳥が
全く見えません。

エージ船長は「底当たり」と呼ぶ、勘と運にまかせて船を走らせて
いきます。

04:50分、まだまだ青白んだ海に曳く縄にカツオは食い、青白い
炸裂をはじめます。



この日、最初の黒潮の子「カツオ」が釣りあがります。
舞阪のカツオは釣れてエージ船長の腕に抱かれた瞬間に締めら
れています。
余計に暴れさせず、即時に絞めることでその肉の鮮度を保ち、ひ
きしめる舞阪のモチガツオは船の上でその値打ちを決めています。



舞阪のモチガツオたちは、釣れてなお大切にされています。
船尾デッキ下のカンコウの中に氷が敷かれ、カツオが並べるぶ厚
いスポンジが広げられています。



その黒潮のベッドは、やさしく並べられて傷がつくこともなく、また
あのカツオの特徴、美しい縞模様を保って舞阪港に戻るのです。

まだ朝ははじまったばかり、このベッドは何段もの寝床となってカ
ツオたちが詰ってゆくのです。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 カツオを絞める

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



舞阪港を深夜に出港し、南の黒潮を目指すカツオ漁、漁徳丸は
黒潮の上を行きます。

カツオ漁船はほとんどが一人での漁、見張りから操船、釣りあげ
から保存まで船長はひとりでこなします。



船尾の引き縄にヒットしたカツオを見て船長は引き縄を引き上げ
ます。
この季節のカツオはまだ小型が多く、1.4キロ~2キロの間、ビリ
ビリッと震える黒潮の子は船長の手に収まります。



意外なほど大きなカツオの口にハリがかかり、つかまれた手に
黒潮の子、カツオの震えがつたわります。
このカツオに釣り上げて即、手間を加えるのが舞阪のカツオがモ
チガツオとされるゆえんです。



尾と体を持った船長はカツオの目の上、カツオの後頭部を船尾に
「ガツン」と叩きつけます。
これでカツオは即時に絞められて、その身そのままに鮮度を保つ
ことになるのです。

一本釣りなどと違い、この手間を一匹づつにかけていることが舞
阪のカツオのうまさの秘訣なのです。



 

舞阪港カツオ漁 泳ぎ誘う潜行板

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



舞阪からはるか南の洋上、黒潮を行く漁徳丸の船尾では黒潮
かつお祭りがはじまっています。

舞阪港のカツオ船は深夜に出港し、南の黒潮を目指します。
早暁から漁をし、午後1時過ぎの競り時間には舞阪港に戻らね
ばならない。 帰り時間までの短期決戦がはじまります。



8本の引き縄が順次に同時にと炸裂し、船に曳かれるもの、船
の速度を追い越して迫るもの、跳ねるものからみつくものを一本
づつ確実に船長は引き揚げていきます。



引き縄についた「潜行板」が躍り上がり浮かびます。
先人が工夫した潜行板とは、引き縄につけられると沈み、大きく
海中を左右に振る仕掛けとなり、その先につけた疑似餌「バケ」
を大きく泳がせてカツオを誘います。

そしてカツオがつけば潜行板は波間に浮かびあがってそれを知
らせるのです。



船長は海からカツオと潜行板を船中に引き抜くのです。
一匹が起す黒潮の騒動は、海の群れたちを刺激し、次々とカツオ
が残り七本の縄を追い、騒ぎはじめてゆくのです。

※取材協力:漁徳丸



 

舞阪港カツオ漁 黒潮に開く長い手

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



「黒潮の本流が幹ならね、太い枝を持っている、枝潮というんだ」

枝潮に長く伸ばした長い手を広げる漁徳丸は底当たり(トリヤマ
などに頼らずに縄を曳くこと)で海を行きます。

カツオの群れは潮のどこかを横切ります。船は運と勘で走ります。
船の無線はひっきりなしに僚船の様子を伝え、漁徳丸は選んだ海
域を探ってゆく、カツオと漁徳丸の航路は今、クロスするかもしれな
いのです。



わずかの鳥が海を薙いで飛んでいきます。
釣れない時間は炸裂の瞬間を待つ時間です。

エージ船長と交わしたヒットがはじまる瞬間の名は「黒潮のカツオ
まつり」、一匹ヒットすれば、曳いている八本の縄は全てが踊り出す。
船長は船尾に走り、「見張り」は瞬間にカメラマンとなる、その瞬間
を舞っているのです。



そしてその瞬間は確実にやってくる。
「船長!」と呼ぶ瞬間に、もうエージ船長は縄を曳きはじめている。

「まつりだぁ!」、広角レンズを放り出し、定まらない腰で黒潮のうね
りをダンスして止め、望遠レンズでビリビリ震えながら縄に曳かれる
カツオを追う、定まらない間にカツオは縄を超えて突進し、潜行する。

汝、黒潮の子なり、黒潮の子は船長も同じ、腰を少し沈めて安定さ
せて縄を曳く、勝負をかける。

にわかカメラの子など、まるで相手にしないで「二人」は黒潮の勝負
をし、次の子は体を震わせながら「さあ次は俺だ」と暴れている。

黒潮のカツオまつりは最高潮となってゆく

※取材協力:漁徳丸





 

舞阪港カツオ漁 船中 黒潮カツオまつり

カテゴリー │漁徳丸 黒潮のカツオ漁



舞阪港を深夜と言えるほどの早朝に出漁し、遠く南の黒潮へ、
黒潮は船の水温計が19℃を超える暖かい海である。

カツオが追うイワシの群れを襲うトリヤマが見えないこの日は
漁徳丸のエージ船長の勘で進む、流す八本の先陣を切って
カツオに強くアピールする潜行板の縄にヒットし、先人の知恵
のこの板はプカリと浮いてヒットを知らせてくれる。

右舷にも左舷にも3本づつ、船尾から2本流した縄の全てに
カツオが食えば船中はまつりがはじまるのです。



左舷側の縄から取り込みはじめればカメラは右舷へと避けて
船長の仕事を撮る。
縄についたカツオは左右に前後に泳ぎまわって「おまつり」に
しようと暴れるから、船長は取り込み側と反対の縄を避けてお
く、それですらも、右舷側のカツオは暴れている。

8本の縄は長短がつけてあるが、カツオは逃げようとどの縄に
も追いついてくるのです。



すばやく取り込み、「ガツン」とカツオの後頭部を船尾に叩きつ
けて絞め、新鮮な海水で満たされた桶の中に放りこむ。
手返しして仕掛けを投入すれば、黒潮のカツオまつりに狂った
後塵のカツオたちはまたそのバケに食いついてくる。

桶のカツオは溢れ、絞めの血は船長の顔にまでしぶき、カメラ
は右往左往する。どんなに忙しくとも、素人は手など出せる現場
ではないのです。

※取材協力:漁徳丸