夜の弁天島、JR弁天島駅からホテル群のある反対側に渡り、舞
阪港方面へ橋を渡り、舞阪の町へ向かうと夜のは夜の楽しみが
あります。
港に向かう道の左側、赤提灯が目印の焼鳥の「肥後」は九州の
肥後(熊本)から来て30年というオヤジさんがやっているお店
です。
カウンターだけのお店はオヤジさんの働く様子を見ながらネタ
の話などを聞ける、目の前のネタケースとオススメの木札を眺
めては熱燗をすするのです。
「メヒカリでもどうだい」と目配せしてオヤジさんが焼きはじ
めたのはあの底曳きでとれるうまい深海魚であります。
ハゼほどの大きさで焼けば白身がふわり甘くて香ばしい。
香ばしい肴となれば熱燗にぴったりとなる。
白身がこげる香りに「クンクン」と並びのお客がオヤジさんの
焼きを覗きこむのです。
「舞阪には専門の漁師さんがいてね、底引きにかかるんだよ」
生のメヒカリはヌルリグッタリとネタケースの中に寝ています
が、焼けばその身をしゃぶる旨さがたまらない。
かじるほどの固さもなく、ホロリとほどけてはメヒカリ、コッ
プ酒をグビリ、枡にこぼれた酒をなめ、またメヒカリの身をほ
ぐし食べてはグビリと行くのです。
舞阪の漁師さんがやってくる、魚屋のご隠居がやってくる、弁
天島や舞阪に住むマンションの住民夫婦がやってくる。
そのたびに、メヒカリの匂いに鼻をひくつかせているのです。
うまい肴を先取りして食べられたのはオヤジさんの勧め。
「週末は若い子が来るんだけどね、今日は遅いんだよ」
「手伝いの女の子が来たら夕飯が食えるんだ」とオヤジさんは
ズラリ並んだ地元衆の注文を手際よくこなしてゆく。
焼きの前に座りカウンターで熱燗を飲む、腹がまた減る、「今
日は最後に鯛の味噌汁だぞ」とオヤジさんが言う。
弁天島・舞阪の夜は更けてゆくのです。