男たちは市場で活きイカを見つけると、ジーッと観察してはよい
ものだなんて思っておりますが、これを買って帰りますと、今度
は女性や子供が喜びます。
男は活きイカが好きで女性は食べる対象としてのイカが好き。
なんて勝手なことを考えております、
祭りや縁日でイカ焼きなどを売っておりましても、男は土産にし
ようと買いますが、それも食べるのはもっぱら女性の方であります。
さて活きイカ、市場のイカですから触ることはなりませんからジッ
と見つめておりますと、コウイカはなかなかセクシーであります。
ようく見ておりますと、色を変えてみたり、プシューッと大きな息
をついてみたり、この胴にふくらませ、空気を取り込んで吐き出し
たりする様子は鼓動でもあり、胸ふくらませるようであり、なかな
かセクシーであると思うのであります。
こう、キチンと脚を閉じまして胸（胴）を大きくふくらませて、シュー
ッツと息を吐く様子、半分透けた体の中には、まるで色白の女性
の手足に血管が写るように、なにかが動いております。
そんなのを市場にいる男の一人は眺めているわけであります。
コウイカばかり眺めておりますと、市場の仲買さんが目をとめて、
もっとやわらかくておいしいイカがありますぜ、旦那、といわんばか
りにアオリイカをすすめたりするのです。
こちらは青いアイシャドウをつけたまさにセクシーさんでありまして、
透け透け衣装をつけ、そのドレスにはひらひらが周囲を囲んでいる
という。
こんな美人に見つめられたらたまりませんなどと、コウイカを放りだ
して男たちは横目してアオリイカを見つめているのです。
冷たい視線を感じまして、男たちはそっと目をコウイカに戻す。
父帰るでありまして、やっぱりこちらへ目を戻してみますと、もういけ
ない。
「シャーッ！」
すっかりセクシーさは消え去りまして怒っている。
「浮気ものめ！」、アオリイカほどやわらかくなくとも、仲買さんに特別
にされなくとも、イカはイカ、コウイカさんと決めましたらコウイカ一途
とならねば、男は浮気もののレッテルを貼られてしまいます。
やっぱりコウイカが好き、ご機嫌をなおしていただいて、美しいその姿
を撮らせていただきます。
世のお父さんたち、そして青年たち、分相応のところで幸せになるのが
一番であります。はい。