食わしてやりなよ。カウンターの常連さん(うなぎ屋さんだっ
たかな)がフフフと笑う。
JR弁天島から東海道を渡り、斜めに舞阪港方面へ弁天橋を渡れ
ば、さかな食事処の「てっちゃ」はあるのです。
カウンターで向かいあっているのに、丁寧にも女将さんは肴が
出来ると後ろから席まで持ってきてくれる。
そこに置かれたのは「あさりのキムチ」なのでした。
ランチ(土曜)に食べた生剥き(きむき)のあさりの天丼の
ウマさに舞阪のあさりが「牡蠣とも並ぶミルク味」だと知り、
そればかり言うから(みかねて)出してくれたのです。
プルンプルンの生剥き、ぷっくりちゃんを口に入れるのを常連
さんたちが見ている。
「んんんー 辛い!ウマい!」となることなど承知のことなの
です。
熱燗で口を洗おうとそのミルク甘さが後を引いてしまう。
酒の修行のやり直し、舞阪ジモティになるにはまだまだ時間
がかかるのです。
九割がたダジャレでしゃべってくれるから、時にワッと全員が
笑い、それにまたネタがかぶる。
うなぎ屋さんにあさり屋さん、保険屋さんに自動車屋さん、議
員さんなどがいるようなのだけれど、酔いとウレシサで判別が
つかなくなるのです。
「あれっ それ何?」全員がカウンターに置く麦焼酎の一升瓶
のセンボ(蓋)がそれぞれ違うのです。
「みんな何か作ってきてな」とてっちゃが蓋に接着したセンボ
を見せてくれる。
「まだまだ修行が足りねえな」と竜のセンボが笑う。
男は黙って麦焼酎、一升瓶についではそれぞれの席に置かれた
魔法瓶から湯を注ぐ。
てっちゃナイトは終わらないのである。